映画館も美術館もない富士に民間劇場オープン!
廃工場から生まれた「富士フルモールド劇場」って?
読書の秋、食欲の秋、芸術の秋・・・。
みなさんはどんな秋を過ごしましたか? 私は劇場で芸術の秋を味わいたいなぁと思っていました。
ところで今年の9月、富士市に「富士フルモールド劇場」という廃工場をリノベーションした民間劇場がオープンしたことはご存じでしょうか?。
富士フルモールド劇場
静岡県富士市唯一の民間による劇場。演出家・長谷川皓大が富士市内の廃工場をリノベーションし、2017年9月オープン。Twitter:@fuji_fullmold HP:http://fuji-fullmold.com/
オープンイベントのこけら落とし芸術祭「文化大発電」では、主催者の長谷川さんが脚本・演出したシアターカンパニーを含む4つの公演以外にも、ヨガ、高校生インプロショー、3776井出ちよのソロライブなどが催され大盛況でした。
「文化大発電」のフライヤー。2017年9月16日(土)開催。
しかし、映画館も美術館もない富士市になぜ劇場をつくったのでしょうか。さらにこの劇場をつくった長谷川皓大さんは大学生と耳にしました。
富士フルモールドとはどんな劇場なのか気になります・・・。
そこで、富士フルモード劇場の芸術監督でもある長谷川皓大さんに、「なぜ富士市に劇場をつくったのか」ということを中心にお話をきかせていただきました。
たった半年でつくり上げた富士フルモールド劇場
長谷川皓大
1995年静岡生まれ。東京学芸大学表現コミュニケーション専攻4年。富士フルモールド劇場の芸術監督。演出家・インプロヴァイザー。新芸術校2期生。演鑑(Lastuterie)。ダンボール人間集団MM5(@MM5_cardboard)代表。
花 | こんにちは。長谷川さんは現在、東京都にお住まいなのですね。 |
長谷川 | そうなんです、大学が東京なので・・・。 |
花 | なぜ富士で劇場をはじめようと思ったのですか? |
長谷川 | そもそもは「場所があったから」というだけでした。祖父の工場が使われていない状態だったんです。 |
長谷川 | 「富士フルモールド鋳造」という発泡スチロールの加工、部品の型をつくる工場を10年前に祖父がやめ、そのあと木材や発泡スチロールを使った作品のアトリエとして使っていましたが、さっぱり片付けて芝居ができる場所にしました。 |
長谷川さんのおじいさんがアトリエでつくった作品。
花 | なるほど、名前はそのまま受け継いだのですね。以前から劇場をつくりたいという気持ちはあったのですか? |
長谷川 | そうですね。富士市は昔から東海道の通過点でしかなくて。でもものづくりの歴史も文化もあるなかで、役割としてもったいないなと。
だから人が集まる場所をつくりたいって、2年くらい前からずっと言っていたんですけど、「実際にやるぞ!」と決めたのは半年くらい前、その半年でガーっと(笑) |
花 | ガーっと(笑)短期間集中で完成したのですね。協力してくださる方が多かったのですか? |
長谷川 | そうですね、クラウドファンディングもしましたし、東京でも「面白いから一緒にやろうよ」と言ってくれる方がいました。
一緒に計画してくれたり、出演してくれた方がいたおかげで、なんとかこの前のこけら落とし公演ができました。クラウドファンディングは、想像していた以上に多くの方に支援していただけて本当に感謝しています。 |
富士フルモード劇場は「出会う劇場」?
花 | そういえば、フライヤーやサイトに書いてあった「出会う劇場」という言葉が気になったのですが、どういう意味ですか? |
――少し考え込む長谷川さん。
長谷川 | 人と人って、どうしても限られた場所、想定の範囲内での出会いが多くなってしまうと思うんです。たとえば、高校生の場合はやっぱり同じ学校の同級生とか先生とか・・・。 |
花 | そうかもしれませんね・・・。 |
長谷川 | そうじゃなくて、もっと全然、所属もタイプも違う人同士の出会い、“想定外の出会い”が起こる場所になったらいいなって。そういう出会いが、「よく分からないもの」「よく知らないもの」への想像力にも繋がっていくと思うんです。 |
花 | たとえば? |
長谷川 | 今回の富士フルモード劇場での公演で3776さんがライブをしにきてくださったんですけど、インプロ(即興演劇)で来た高校生と3776を観にきた大人たちが同じ部屋にいたんです。
互いのノリの違いを、なんとなくすり合わせて一緒に盛り上がっている空間がすごくいいなって、なんだろこの時間って(笑) |
花 | なるほど。たしかに非日常的で素敵な時間ですね。 |
長谷川 | そうなんです。別にお互い話をするわけではないですけど、そういう似通っていない人同士が同じ場所にいるというのがいいんじゃないかな、「これはいい時間だなぁ」って思いました。
そこまで劇的には変わらないかもしれないけど、よくわからないものへの想像力って必要なんじゃないかなって思います。そういう意味で「出会う劇場」です。 |
実際に富士フルモード劇場を案内してもらうことに・・・
劇場をつくる経緯を説明していただいた後日、実際に富士フルモールド劇場の中を案内していただきました。
長谷川 | いまは片付けてありますが、ここに流木でつくったベンチなどを並べました。 |
花 | なるほど。だから今日は広い空間になっているのですね。前回の公演「文化大発電」は何人くらいでつくられたのですか? |
長谷川 | 企画は僕と山田カイルさんという人と2人でおこないましたが、出演者さんは20人くらいで、関係者もあわせると全部で3~40人くらいですかね。 |
花 | なるほど、出演者は同年代が中心ですか? |
長谷川 | いえ、10代から70代までまんべんなくいました。今回は僕が通っていた高校の生徒たちも出演してくれたんです。
僕が大学で学んだインプロを取り入れたワークショップをおこないつつ、一緒にショーを作り上げていきました。ほかの高校の生徒さんも観に来てくれたのですが「俺らもやりたいっす」と言ってもらえて嬉しかったですね。 |
文化祭発電のフライヤー。
花 | 最後に富士フルモールド劇場の今後についてと、長谷川さんが目指していることを教えていただけますか? |
長谷川 | これからの富士フルモールド劇場での次回公演はまだ決まっていないのですが、この劇場を拠点にもっと富士市がアートの行き交う場所になればいいなと思っています。
僕自身は富士市で即興演劇ワークショップをしたいですね。それこそ、今回の公演を観にきてくれた高校生たちが「やりたい」と言ってくれたので、公民館などを借りてでもやりたいなと思っています。 |
台風のなか、おじゃましました!
「映画館も美術館もない富士市になぜ劇場をつくったのか」。それはおじいさんから受け継がれたこの工場を、想定外の出会いが起こる劇場として再稼動させたということだったんですね。
設立にあたってさまざまなお話を聞かせていただきましたが、そのなかで長谷川さんの「もっと演劇の面白さを広めたい」という強い気持ちを感じました。
静岡のアートが行き交う場所として動きだした富士フルモールド劇場、個人としても地域に根付いて活動しようとしている長谷川さんにも目が離せません。