これを観ると○○が食べたくなる!
食欲の秋にピッタリな映画【映画日和11月号】
こんにちは。映画好き3人が対談形式でおすすめ作品を贈る企画「映画日和」。
静岡市で唯一の単館系ミニシアター「静岡シネ・ギャラリー」の副支配人である川口さんと海野さん。そして、最近観たお気に入りの映画は『スイス・アーミー・マン』のmiteco編集部・山口でお送りします。
これを読んで「映画が観たい!」と感じたら、その日が映画日和ですよ!
今月のテーマ「食欲の秋! これを観ると○○が食べたくなる」映画
先月は「秋の夜長に観たい映画」を紹介しましたが、今回は同じ秋でも「食欲の秋」がテーマ! 映画といえば絶景だったり、泣けるラブストーリーだったり、特撮だったりとさまざまな視点から楽しめるものですが、「グルメ映画」「映画飯」というのも一大ジャンルですよね。
作中の登場人物たちがどんなシチュエーションで料理を食べるのか・・・。そんな部分に注目しながらも、単に「これ観ると○○が食べたくなるんだよな」と感じてしまう映画をご紹介します!
山口 | これ、やってこなかったんですけど「映画飯」ついにやります。よろしくお願いします! |
海野 | 定番ですからね。ちょっとひねったものが出したいですね(笑) |
川口 | よろしくお願いします。 |
インドの揚げ菓子「ジャレビ」がめちゃめちゃ食べたい!|『LION/ライオン~25年目のただいま~』
海野 | じゃあ、まずは僕から。テーマを聞いてパッと浮かんだのは、ジブリ映画に登場する「ジブリ飯※」とか邦画の『かもめ食堂』だったんですけど、その辺はみんな知ってるよなと(笑) |
山口 | ジブリ飯はまさにですよね。 |
海野 | そこで今回紹介しようと思ったのは『LION/ライオン~25年目のただいま~』です。日本では2017年公開の作品なので、まだ観てない方もいるかなと。 |
※ジブリ飯:『天空の城ラピュタ』の目玉焼きをパンに乗せた「ラピュタパン」を代表とする、ジブリ作品に登場するグルメ。
『LION/ライオン ~25年目のただいま~』 2016年 オーストラリア
インドで迷子になった5歳の少年サルーは親と離ればなれになり、オーストラリアの夫婦の養子となる。そのまま25年のときを故郷と離れた国で過ごし成長。あるとき、友人からGoogle Earthなら世界中のどこへでもパソコンから行くことができると教えられ、幼少のおぼろげな記憶を頼りに母や兄の暮らす故郷を目指す。
山口 | これは僕もまだ観てないやつですね・・・。いわゆるグルメ映画なんですか? |
海野 | いえ、これは話の本筋にご飯が登場するわけではないんですけど、とても重要なシーンで、あるお菓子が出てくるんです。
ざっとした話からいくと、インドの貧困街に住むある少年兄弟の弟、サルーが駅で家族とはぐれてしまったうえに、混乱して電車に乗ってしまい迷子に。とんでもない距離を移動してしまったし、5歳の男の子だから住所も苗字もあやふや。 |
山口 | 結構悲惨なスタートですね・・・。その状況では、絶望的かも。 |
海野 | そう。結構暗い(笑)結局、両親は見つからなくって、その代わりというか、タイミングよくオーストラリアの夫婦が養子として引き取ってくれるんです。 |
山口 | じゃあ、その後はずっとオーストラリアで? |
海野 | そのとおりですね。しかも結構しっかりした夫婦で、大学まできちんと通わせてくれたし、生活には何不自由なくしてもらってる。だから、サルー自身もだんだん過去のことを忘れて、育ててくれた親に恩返ししたいなんて思いながら生きていくんです。 |
山口 | あれ? でもタイトル的には「ただいま」ですよね・・・? |
海野 | そうです。ここから後半戦というか、あるときふと覚えのある匂いがする。そこで登場するのが「ジャレビ」というインドの揚げ菓子。これがきっかけで忘れかけていた記憶がフラッシュバックして、自分のもともと暮らしていた場所を探すことになるんですよ。 |
予告編でも登場するジャレビは、ドーナッツのような見た目の揚げ菓子。これはたしかにおいしそう・・・。
川口 | あったあった。あのお菓子たしかにうまそうだった。しかも、そっからGoogle Earthで家探し(笑) |
山口 | えええ!? 映画らしく旅に出るとかじゃないんですね・・・。 |
海野 | 現代的ですよね(笑)当時のわずかな記憶を頼りに、寝てた時間や電車のスピードからだんだんと絞り出していくという。 |
山口 | すごい。それはそれで面白そう。 |
海野 | 個人的によいな、と思うのはそういういまのツールを使って本筋のストーリーが進行する一方で、思い出したのはジャレビという故郷で離ればなれになる直前に目にしたお菓子。こういうフィジカルな匂いとか見た目とか味とかってやっぱりすごくて、このお菓子一発で「やっぱ帰りたい!」ってなるんですよ。 |
山口 | なるほど・・・。 |
海野 | ジャレビはインドでもちょっと特別なときに食べるようなお高めのお菓子。生地を鍋の中にいれて揚げるプレッツェルみたいな感じなんですけど、これがもうとてつもなくうまそうなんですよねえ。 |
小さな村でふるまわれるフランス料理のフルコース|『バベット晩餐会』
川口 | 僕もいろいろ考えたんだけど・・・。それこそ『南極料理人』とかいいよなみたいな。もうめっちゃラーメン食べたくなる。 |
山口 | あれはまたうまそうに食べるんですよね(笑) |
川口 | でも、それこそ定番だし知っている人も多いよなと。あとは『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のレンジで・・・。 |
山口 | (食い気味)ボンッてなるやつだ! |
川口 | あれとか「うまそうとは思わないけど、食いたくなるよな」って。でも結局、ベタに行こうと『バベットの晩餐会』を紹介します。 |
『バベットの晩餐会』 1987年 デンマーク
19世紀後半のデンマーク。パリ・コミューンで家族を失ったフランス人女性のバベットは、辺境の小さな村に身を寄せる。彼女が家政婦として暮らし始めた家には、敬虔なプロテスタントの初老姉妹が質素でつつましい暮らしを長年続けてきた。あるとき、宝くじに当選したバベットは村人の信仰心を再び高めたいと考える姉妹に対して、晩餐会の開催と料理をふるまうことを提案するが・・・。
川口 | これはもうタイトルどおり料理が登場する物語なんですけど、主軸は「敬虔なクリスチャンの住む村にやってきたバベットが村人と仲良くなるまで」みたいなところで。 |
海野 | この村というのが敬虔な信仰のあるところで、とにかく質素。バベットが家政婦として暮らすのは牧師さんの家なんですが、この牧師さんが厳しくって、「娯楽なんかない」みたいな。牧師さんのふたり娘も父の志を継いで、求婚があったにもかかわらず清廉な道を歩んでいるんです。 |
川口 | ですが、あるとき牧師である父が亡くなってしまう。そうして村人の信仰心が下がっていくのを気がかりに思ったふたりは、父の生誕100年の誕生日にささやかな晩餐会を開こうと考えたんですね。 |
山口 | で、ここにバベットが登場すると。 |
川口 | じつは、バベットはこのタイミングで宝くじが当たったんですよ。 |
山口 | あれ? 地元に帰ってもよさそうじゃないですか。 |
川口 | って姉妹も思うんだけど、あえて引き留めることはない。「悲しいけど送り出そう」と決めてバベットの話を聞くと、例の晩餐会で料理をさせてくれないかと(笑)費用もバベット持ちで。 |
山口 | あら。意外な展開。 |
川口 | しかも、フランス出身だからフルコースですよ。豪華な食材がどんどん村に運ばれてくるんですが、ここの人たちは「あれー・・・!?」みたいな。ウミガメとかウズラが生きたまま届いて(笑) |
海野 | 「あれ食べるのかよ・・・」みたいな感じでシュールだよね。娘はウミガメの悪夢を見ちゃうくらい。そもそも信仰を取り戻そうと企画したのに・・・。 |
川口 | だから実際の晩餐会ではめちゃくちゃおいしいフルコースなんだけど、みんな質素に静かに食事を終えようとする。でもどうしてもにやけちゃうし、なんだかんだ食事も進む。それでいがみ合ってた老夫婦が仲良くなっちゃったり、敬虔な姉妹も昔のいい思い出に浸ったり。 |
山口 | 絵にかいたようなハッピーエンドですね。 |
川口 | それでバベットの裏話が出て、結構ファンタジーな終わり方を迎えますね。 |
山口 | で、このフルコースがうまそう。っていうことなんですね。 |
川口 | そうなんです。こんな流れなのであんまり「うまい!」とかって言葉が飛び交うわけじゃないんですけど、心が温まるような顔や、幸せになっていく姿が見て取れて。さっきまで「ウミガメ?」みたいに思ってたのが、こうまで変わるかと。 |
山口 | 大人になってもフランス料理のフルコースなんてめったにお目にかからないですし、気になりますね。 |
川口 | ウミガメのスープとか、ウズラのパイとか、すごくうまそうなんだけど僕も食べたことないなあ(笑)そういう意味で、未知の食材というか味に対してすごく食欲がわいてくる映画じゃないかな。少し昔の映画ですが、これは名画です。 |
とにかくパンが食べたくなる|『しあわせのパン』
山口 | 洋画が2本続いたので僕は邦画を。これは『バベットの晩餐会』とは打って変わって最近の映画、2011年の作品で『しあわせのパン』ですね。 |
『しあわせのパン』 2011年 日本
北海道、洞爺湖のほとりにある小さな町「月浦」。ここで宿泊もできるカフェ・パン屋「マーニ」を営むのは、1年前に東京から越してきたばかりの水縞夫妻。店を訪れるさまざまな人たちが、夫の尚が焼くパンと妻のりえが淹れたコーヒーや料理、そして夫婦のぬくもり触れて帰っていく。
山口 | 比較的小規模な映画ではあるんですけど、キャストが大泉洋と原田知世で豪華なんですよね。そして作品としてはド直球にグルメに焦点が当たったやつ。 |
川口 | これは観てないなあ。 |
海野 | 僕も。 |
山口 | おっと。これは珍しいパターン。当時といえば、それこそ『かもめ食堂』『南極料理人』『ふしぎな岬の物語』なんかのグルメ×ヒューマンドラマがいくつかあって。 |
川口 | 当時はちょうどフードディレクターとかフードスタイリストさんが活躍してて、邦画でおいしそうなグルメ映画はめちゃくちゃ多かったね。 |
山口 | そんななかのひとつが『しあわせのパン』ですね。ほのぼのとしたお店にやってくるちょっと心に傷を負った人たちが、大泉洋演じる水縞くんが焼いたパンと、原田知世演じるりえさんの作る料理に解きほぐされていく話。
物語は春夏秋冬の季節ごとの構成で、各季節に彼氏から旅行をドタキャンされたけど有給取っちゃった東京のOLとか、奥さんに出ていかれちゃった近所のサラリーマンとその娘とかがやって来る。で、それぞれに料理を食べるんだけど、これがとてつもなくうまそうという・・・。 |
海野 | 話ごとにちょっと泣ける要素が入ってる感じですかね? |
山口 | そうですね。場所柄、じゃがいもやカボチャなんかの野菜もすごくおいしそうで、そこにパンですからこれはもうたまらないですよ。 |
山口 | この映画のフックとしては、大泉洋と原田知世の夫妻もどこか抱えているものがあって。スローライフというテーマでいくとありがちになっちゃうんですけど、そこに「パンを分け合う」という演出が多用されて「一緒にご飯を食べるといいことあるよ」みたいな。ちょっとほっこりした気分になってくるのがいいんですよね。 |
川口 | のんびり観れそうなやつですね。 |
山口 | ですね。ぜひ誰かと一緒に観て、そのあとはおいしいパンを食べてほしいです(笑) |
グルメ映画で心温まる時間を2度
いかがでしたでしょうか? 食欲の秋にピッタリな「おいしそうな映画」。
でも映画の魅力はそこだけじゃなくて、グルメと一緒に心が温まるストーリーがあること。思わずジーンとくるような作品を観てからお腹を満たすのもよいですよね。
もし今日観る映画に困っているのであれば、こんな食にまつわる映画はどうでしょう? 気になる方はぜひチェックしてみてくださいね。
それでは12月号もお楽しみに。