知っていますか?掛川市の伝統工芸品「葛布」
約1世紀半の歴史をもつ老舗に伺いました

  • posted.2017/10/23
  • 甲田みずほ
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知っていますか?掛川市の伝統工芸品「葛布」 約1世紀半の歴史をもつ老舗に伺いました

こんにちは。ライターを始めました、甲田です。

私は掛川市在住ですが、読者のみなさんは「掛川」からなにを連想しますか?

掛川茶? 掛川城? よく聞くのはこのあたりですが、お茶もお城も掛川特有のものではありませんよね。

そこで紹介したいものが、掛川の伝統工芸品「葛布」です。同じ字で「くずふ」、「かっぷ」の2通りの読みができます。葛布とはなにかというと・・・。

葛布
山野に自生する葛の繊維を織り上げた布のことです。

「掛川手織葛布ホームページ」より

名前そのままとはいえ、植物で織った布って想像に困ると思います。普段、目にする葛は電柱やら標識やらに巻きついていて、うっとうしいイメージですよね。正直なところ、私も葛布の名前しか知りません。

そこで葛布のことを知るために、明治3年からやっているという、葛布を扱う超老舗に足を運んでみました!

100年以上続く老舗!川出幸吉商店へ

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葛布のことを教わりに伺ったのは、私が掛川駅に向かうときに必ず目にする川出幸吉商店。大きく「葛布」と書かれた看板が目印です。

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店内に入ると、5代目店主の川出英通さんが出迎えてくださいました。挨拶を終えるとさっそく、「来てくれた方にはいつもこうしているから」と映像でお店と葛の紹介を始めます。

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kuzuhu_face_01川出 これは私の親。この店はもう1世紀くらいになる。まあ、それはちょっと言いすぎだけど・・・。
kuzuhu_face_02甲田 インターネットで見たんですけど、川出幸吉商店さんは明治3年から続いているんですよね。
kuzuhu_face_01川出 そう。個人の店だからね、(明治3年の)何月までとはわからないけど。葛屋をやる初代の人が幸吉っていう名前だから、川出幸吉商店っていうの。

明治3年は西暦では1870年です。言いすぎどころか1世紀を軽く過ぎています! 「伝統工芸品」という言葉に重みが増しますね。

葛布へのこだわりは葛選びにありました

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映像に加えて手書きの図も使いながら、葛布づくりの説明が始まります。材料となる葛はただ採ればいいわけではありません。

kuzuhu_face_01川出 葛は地を這っているのを選ぶの。普通は木に絡まってっちゃうじゃない。そうすると、繊維にクセがついてしまうのと、採りにくい。

 

それと太さは指くらいで、長さは3mとか5mを選ぶ。場所はすぐに川に入れて洗うことができる場所。川の近くで作業のできる人が仕事ができるわけ。

葛を手に入れたら、表皮、繊維、芯の3層からなる葛を煮、腐らせ、洗い、干していくことで繊維の層だけを取り出します。

最初に50kgの葛を採るそうですが、繊維以外を取り除くことで、重さはわずか1kgになるとか! この時点で下の画像の11番まで進みます。葛苧(くずお)の出来上がりです。

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葛布の工程表。11番には「乾燥したものを葛苧と呼びます」と書いてあります。

葛苧になると糸として使えるようになります。あとは毛糸玉のようにまとめて「つぐり」とよばれる塊を作り、機織り機で織りあげます。

葛布を織る前に必要なこと

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ここからはつぐりになった葛苧を手に取り、葛布を織る作業です。完成までに手間がかかることを思うと、具体的な作業期間が気になります。

kuzuhu_face_02甲田 質問してもいいですか。葛を採ってから製品ができるまでに、どのくらいの期間がかかりますか?
kuzuhu_face_01川出 葛苧になるまでが約1週間。つぐりになるまでが1か月半くらいかかる。ほかにまだなにかありますか?
kuzuhu_face_02甲田 葛布ができるまでにどのくらいの方が関わるかも知りたいです。

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kuzuhu_face_01川出 現在は、川出幸吉商店では家族だけ。私と女房と子供ふたり。葛を採ってくれる人は今年、いなくなっちゃった。
kuzuhu_face_02甲田 採るのも家族で(することになる)、ってことですか。
kuzuhu_face_01川出 これからはそうしなきゃいけなくなっちゃうけど、実際はできない。ただ、私の先代とか先々代の人が蓄えた葛がある。だから、とりあえず子供らがやるまではあるかな。あとはどう?
kuzuhu_face_02甲田 いまは大丈夫です。ありがとうございます。

葛布づくりの映像でも「もうやめてしまった」という方々が見られたのですが、川出さんの答えからは葛布事情の現実が垣間見えます。すべて手作業となる産業は、いまでは存続が難しいことを実感しました。

さみしいけれど、体験ができるって、そのぶん貴重に感じられます。

実際に機織り機を使って織ります

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川出さんは質問に答えつつ、機織り機の準備と説明を開始。これから私も、機織り機を使った体験をさせていただきます。川出さんの実演を見て、手だけではなく足も使うことを私はこのとき、はじめて知りました。

いま振り返ってみると、川出さんの動きを見てはいたものの、言葉は全然聞けていなかったような気がします。私にもちゃんとできるのか、本当に不安でした。

とりあえず、機織り機に腰をかけて、おそるおそる織っていきます。

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kuzuhu_face_02甲田 (機織り機がギシギシ鳴ってこわい・・・。壊れそう。)
kuzuhu_face_01川出 こわれへんで大丈夫。こわれへん、こわれへん。
kuzuhu_face_02甲田 はい・・・。

このように、最初は機織り機に慣れていないこと、葛苧が頻繁に切れることからぎこちなく織っていました。でも、慣れるのは思ったよりも早いものです。途中からは楽しく感じるようになり、織り終えたときの達成感はかなりのものでした。

織り終えたあとに、川出さんが「みんなができる。大丈夫」と言葉をかけてくださったときは本当に安心しました。心を見透かされた気分で。

葛布を身近に感じてもらうために

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若者に興味を持ってもらうことができるかが、すべての伝統工芸品の課題です。この取材をするにあたり、身近なきっかけがなにかないか、私と母とで相談してみました。なかなか難しく感じることなので、川出さんにもお聞きします。

kuzuhu_face_02甲田 伝統工芸品って、人手や時間がかかるので高価ですよね。若者には手を出しづらいので、父の日とか母の日とか敬老の日のプレゼントに、兄弟でお金を出し合って買うことならできると思うんです。そういうのにおすすめの製品があれば教えてください。
kuzuhu_face_01川出 それなら掛け軸だね。もしおうちに色紙があれば、子供さんが字を書くなり絵を描くなりしたら一緒につけて、そうすると自分の家の中に飾るじゃない。習字をやってる子供さんだったら和紙じゃなくて色紙に書くとかね。

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ちょうど私の家には色紙を飾った掛け軸があります。取材後に見てみたら、葛布を使ったものでした! 掛け軸は贈り物ではないものの、素材がわかると親しみがわきました。

作品を額縁に入れるのもいいけれど、掛け軸に飾ると作品が前面に出るので、より引き立つような気がします。

川出さんには掛け軸をおすすめしていただきましたが、葛布製品の種類は豊富で、毎日持ち歩くことができるものも作られています。

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「製品を見るだけしたい、葛布の話を聞くだけしたい!」という方でも大歓迎だということなので、興味を持ったら一度、川出幸吉商店に行ってみてはどうでしょう?

資料を見るだけではわからないことも、きちんと知ることができます。また機織り機は普段目にしづらいので、機織り体験は本当におすすめです!

今回注目した「葛布」ですが、私の家に掛け軸があったように、みなさんの身のまわりにもあるかもしれません。もし葛布を見つけたら、掛川の伝統工芸品だな、と覚えていてもらえると嬉しいです。気が向いたら探してみてください。

掛川でいろんな「古き良き」に触れる

川出幸吉商店

住所:〒436-0075 静岡県掛川市仁藤町7-3
電話番号:0537-24-2021
FAX:0537-22-1685