落語で切り取る静岡「らしさ」の再発見!
1県に1つずつの落語「d47落語会」レポ

  • posted.2017/09/07
  • ゆっけ
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落語で切り取る静岡「らしさ」の再発見! 1県に1つずつの落語「d47落語会」レポ

こんにちは、先日念願だった北アルプス「槍ヶ岳」に登頂してきたゆっけです。

ところで、こういう山やレジャーの情報ってどうやって探しますか? 人によっては登山の難易度かもしれないですし、登り切ったあとの絶景を目当てに登る山を定める人もいるかもしれません。

そんなときに役立つのが書籍やインターネットでの情報ですが、こうした旅行ガイドのなかでも一線を画すコンセプトと存在感を放つのがガイドブック「d design travel」です。

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そのコンセプトは「デザイン視点から見て、その土地らしいスポットを掲載する」という、街そのものをデザインで切り取ってしまう斬新な旅行ガイド。

ちょっと読んでみると、「むむ、なるほど」と地元民でもうなってしまうようなスポットや、「その見方はしてこなかった」と感じるような紹介のされ方に読み応えもたっぷりです。

d design travelは各都道府県で1冊ずつ作るというコンセプトで刊行が続けられていますが、このたび、静岡県は2冊目となるリニューアル版が発売開始

静岡号表紙_影あり

そして、それに合わせ、同ガイドブックを発行するD&DEPARTMENTが手掛けるとてもユニークな企画が開催されたんです。

その名も「d47落語会」。

こちらは全国各地を題材にした新作落語「47都道府県落語」を1県に1つずつ作っていくプロジェクトとしてスタートしたもの。

d design travelの新刊が出ると、脚本家の藤井青銅氏が新作落語を描きおろし、落語家である柳家花緑氏が各地で披露するという内容で、今回、さる7月18日、静岡の2刊目の発行に合わせ、初上陸しました。

今回は静岡演劇の聖地「SPAC」で行われた「d47落語会」に参加させていただきましたので、そのレポートをお届けします!

※d47落語会はd design travelの静岡初刊の時にはなかった企画のため新刊が出た今回が初となりました。

SPAC落語?!

dandd_01今回の会場であり東静岡エリアのシンボル「グランシップ」

静岡版「d47落語会」は、グランシップ内にあるSPACのメイン劇場、「静岡芸術劇場」で行われました。

SPACとは

静岡県舞台芸術センター(Shizuoka Performing Arts Center:SPAC)は専用の劇場や稽古場を拠点として、俳優、舞台技術・制作スタッフが活動を行う日本で初めての公立文化事業集団です。

SPAC公式サイトより

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県民の方でもあまりなじみがない団体・会場かもしれませんが、じつは世界的にも非常に評価されているのがこのSPAC。地方の自治体がこうした専門的な芸術集団を抱えるケース自体は本当に珍しいことで、各地で注目を集めています。

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でも、どうして演劇用の劇場で落語? と感じる方もいるでしょう。その理由は、「d design travel」での取材でSPACや芸術総監督である宮城聰氏が取り上げられたから。

その縁があって今回の落語会で会場となったというわけです。アートの垣根を超えたコラボレーションといえるかもしれませんね。

普段は演劇が上演されるこの場所が、落語で使用されるのは初めてとのこと!

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うーむ。たしかに、異様というか・・・。落語ではそこが舞台となる「高座」が真っ暗な空間にぼおっと浮き上がっているようです。この空間だけでもかなり惹きつけられました(笑)

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d47落語会は、3部構成で第1部は古典落語、第2部にご当地をテーマにした新作落語、第3部がトークセッションとなっています。

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しばらく待っていると、SPAC文芸部の大岡淳さんが登場。今回の経緯や企画の主旨について説明をしてくださいました。

なんと、SPACの芸術総監督である宮城聰さんは大の落語好きで、今回はフランスのアビニョン演劇祭へ招聘されているため参加できず大変残念そうだったとのこと。意外な接点が見つかりました。

第一部:古典落語「刀屋」

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さて、大岡さんのお話しが終わるとお囃子に合わせて花緑さんが登場。第1部は古典落語です。「落語」といえば古典落語のイメージを持たれる方も多く、古くから大衆に根差した文化としていまでもファンが多いですよね。

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今回披露された噺は「刀屋」。

あらすじ:古典落語「刀屋」

徳三郎はおせつの婚礼の席へ切り込もうと刀屋へ行くが、店の主人に意見されて思いとどまり、そこへおせつが逃げ出してきて・・・。

いわゆる「泣ける」シリアスな落語でしたが、花緑さんの話に聞き入るばかりで全く退屈はしません。ひとりで何役もの人柄を演じながらストーリーを組み立てていく噺家さんはやっぱりすごい!

「d47落語会」ではこうして古典落語を演じ、昔から親しまれている落語の魅力をわかりやすく伝えています。それぞれの会場で違う噺が披露されるので、どんな噺が飛び出すのか毎回楽しみに訪れる方も多いのだとか。

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第二部:新作同時代落語「のののののの」

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仲入りをはさみ第二部にて新作、静岡県をテーマにした落語のお披露目です。

47都道府県落語は、古典落語とは違っていまの時代に合わせたテーマで今の言葉や文化をネタに披露される「同時代落語」のスタイル。

恰好だって現代なんです。今回は静岡落語ということでお茶をイメージしたというグリーンのシャツに着替えて登場した花緑師匠。高座もなくなり、なんと椅子が登場です。

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お題目である『のののののの』は、新幹線「こだま」「ひかり」「のぞみ」を擬人化し、それぞれの三視点から語られる噺。

個性溢れる新幹線たちが県内に6つある新幹線の停車駅、熱海→三島→新富士→静岡→掛川→浜松と挨拶に向かい、それぞれの土地ならではの話題が炸裂しました!

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静岡県民なら思わず「あるある!」といった内容に、会場は終始大爆笑の渦に巻き込まれていました。

第三部トークショー「劇場でやる落語って」

dandd_12左から「d design travel」編集長:ナガオカケンメイ氏、SPAC文芸部:大岡淳氏、落語家:柳家花緑氏、作家:藤井青銅氏。

2つの落語が披露されたあとは、トークセッション。「d design travel」編集長:ナガオカケンメイ氏、SPAC文芸部:大岡淳氏、落語家:柳家花緑氏、作家:藤井青銅氏の4名が登壇しました。

劇場で行う落語について、新作落語の誕生秘話、SPACについて、普段はなかなか聞けない裏側をフリートーク形式でご紹介。一般的な落語会でもこういった裏話はあまり聞けないので、このフリートークも「d47落語会」の魅力のひとつです。

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dd_rakugo_f4 ナガオカ 今回の新作落語のポイントは?
dd_rakugo_f2 藤井 演劇の舞台なので最も演劇っぽくない、演劇に変換できないものにしようと思って考えましたね(笑)
dd_rakugo_f4 ナガオカ 花緑さんはこの舞台で古典をやるイメージはしていましたか?

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dd_rakugo_f1花緑 笑える噺の前に聴き込める噺をやりたいと思っていて。一度会場を見せてもらった時に、この奥行きとこの雰囲気は普段の寄席には全くないものなので、ここでこのネタをやったらみなさんどんな風にイメージしてくださるかなと思ってチャレンジしてみました。

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dd_rakugo_f2 藤井 一部で聴かせ、二部で笑わせ、メリハリがついていましたよね。
dd_rakugo_f3 大岡 演劇と空気感が違いましたね。ソロパフォーマンスみたいなものは世界のいろんな演劇人がここでやってくれていて。刀屋はそういう意味ではちょっとシリアスな所もあったから、それを思い出しましたね。色んな共通点があるなと。

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dd_rakugo_f4 ナガオカ つぎに新作ですが、これはどんな経緯で新作が生まれたんでしょう?
dd_rakugo_f2 藤井 私、以前静岡で仕事をしていたことがあったんです。だから静岡の土地勘もある程度あり、東西に長いのも知っていたので、なるべく各地の方々に楽しんでいただける落語になればいいなと思い形にしました。
dd_rakugo_f1花緑 以前福岡でやった時に会場が北九州だったんですよ。そうすると北九州でやるのに福岡(博多)の落語はできないってなって。
dd_rakugo_f2 藤井 ここでいう静岡でやるのに浜松の落語はできないって事ですね。
dd_rakugo_f1花緑 だから今回は青銅さん(藤井)がどういう風に作られるのか、静岡市に特化した話になるのか、蓋を開けたら見事に全域に関わっていましたね(笑)これは静岡県のどこでもやれるのではないかと。
dd_rakugo_f2 藤井 浜松の時は浜松の話を少し長めにすればいい(笑)

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dd_rakugo_f3 大岡 うちは県立の施設なので、全県的に扱っていただけて助かります(笑)静岡市に特化した内容だと、県民の税金を使って静岡市の味方か! となりますので(笑)

宮城さんは理性で演劇へ!?

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dd_rakugo_f4 ナガオカ SPACは特殊ですよね。この本の中で記事を書かせていただいたんですが、最終的にこれが成立しているのは静岡県民の県民性なんじゃないかと。
dd_rakugo_f3 大岡 SPACの芸術総監督の宮城の言い方をそのまま借りると、大変のんびりした県民性があるので、365日SPACをなんとかして潰してやろうってエネルギーを傾ける方もおられない(笑)

 

なんとなく見過ごされて今に至るという事は以前宮城が言っておりました。

dd_rakugo_f1花緑 僕も宮城さんは以前持たれていた劇団の頃から知っていたので、今回の件もすごくご縁を感じています。演劇人がたくさんいるなかで、宮城さんを昔から知っていたというのはやっぱ運命を感じますね。

 

と思ったんですが、本人が今日ここにいないという(笑)驚きましたねー。

dd_rakugo_f3 大岡 宮城から「あとは頼んだ」と連絡がありました(笑)

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dd_rakugo_f4 ナガオカ 宮城さんは落語をされるんですか?
dd_rakugo_f3 大岡 お客さんの前でやることはないですけど、やれるはずです。少なくとも強烈な落語マニアであることは間違いありません。

 

彼がまだ若かった頃に彼の特集番組がNHKであったんですが、そこで「塾の先生をやりながら食いつないでいた頃に、宮城聰ショーというひとり芝居をしていました」と紹介されているんですね。

 

この、「ひとり芝居」をするのに落語からたくさんインスパイアされたようです。落語のカセットテープも相当持っていましたよ。

 

なんでも中学生の頃から寄席に通い、噺家からも有名なお客さんで名物中学生だったなんていう話も聞きます。

dd_rakugo_f4 ナガオカ なんででしょうね。
dd_rakugo_f1花緑 理性が働いちゃったんでしょうね(笑)「落語家じゃないな」みたいな。

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最後には質疑応答の時間もあり、好評のうちに「d47落語会」は閉幕。終始和やかなムードでフリートークは進みましたが、よく考えるととんでもなく豪華なメンバー。話もここでは書けないような裏話が飛び出して・・・。個人的には大満足です。

静岡の個性が織り込まれた新作やフリートークを聴き、他の県から見たときに静岡県は「おおらか」に見えて、それが土壌となった場所なんだと気づきました。

たしかに会場もゆったりとした雰囲気がありました。こうした機会が得られるのも、真剣にその土地に向かい合った「d design travel」があるからこそ。ナガオカケンメイさんの視点やお話しには聞き入ってしまいました。

時代と共に進化していく落語。d47落語会はその機微をとらえて表現する機会のひとつです。自分の住んでいる町がどんな風に切り取られるのか。灯台下暗しではないですが、デザインや落語などいろいろな視点で切り取ってみると、新しい発見がそこにはあるのかもしれませんね。

公式サイト:D&DEPARTMENT

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