法多山の住職カフェ「ごりやくカフェ」
お寺がローカルのつながりを育む目的
秋葉山可睡斎、医王山油山寺とならぶ遠州三山のひとつ、法多山尊永寺。厄除観音を祀る由緒正しい寺として広く知られ、名物「厄除けだんご」はとくに有名です。
筆者もよく訪れている寺ですが、その目的は参拝のみにあらず。というのも、法多山では寺の行事以外にもさまざまな催しがあるのです。
寺の催しといえば除夜祭や田遊祭、節分祭などがあり、法多山ならではといえば「万灯祭」が知られています。加えて、県内の雑貨店が主宰するコトコト市、星空観賞会の「星満夜」などを開催しており、地域と協力しながら賑わいを生んできました。
本堂前で星空を観賞する星満夜。浜松の「星空公団」も協力している。
「寺院と市井の恊働」は珍しいことではありませんが、法多山はとくにそのような活動が多いと感じていました。そして2017年1月、今度は参道と境内それぞれにカフェをオープンしたのです。
コトコト市や星満夜にも現れる住職の店
その名は「ごりやくカフェ」。写真は参道にあるほうの店舗で、現在はコーヒーとマドレーヌ、甘酒のみのメニュー構成です。
営業を担うのは菓子職人の北川克美さん。プロデュースしたのはなんと……。当寺院の住職、大谷純應さんです。
法多山尊永寺の大谷住職(写真右)と北川さん。
じつはこのごりやくカフェ。実店舗としての営業はまったくのはじめてですが、これまでのコトコト市や星満夜といった催しに、大谷さん主導で参加しています。
袋井にある「オカン食堂」やコーヒー豆店「まめやかふぇ」といった地元飲食店と組み、「cafe du juno」として人々をもてなしてきました。「juno」は大谷さんのファーストネームからとったものです。
寺なのに、住職なのに。なぜこのような活動に、積極的に関わるのかを伺いました。
大谷 |
いや、寺ってもともとそういう場所だったんですよ。寺はコミュニティの中心として、境内で芝居したり、市場を開いたりしていました。
戦中・戦後と社会環境が変化するなかで、いつしか寺は地域と関わる機会、ないしは意識を失っていった気がします。 |
……あれ? そういえば、編集部の山口さんが「静岡シネ・ギャラリー」に足を運んだときも、同じく寺の住職がまったく同じことを語っていたような。
大谷 |
寺や住職は決して、人々から遠い存在ではありません。むしろ地域の人々と共に歩んできました。
浅草の浅草寺がいい例でしょう。目指すべきは浅草寺のように、地域から愛される存在です。 |
地域から愛される、まさにローカルな寺。このような場所が静岡にあると思うと、妙に嬉しい気持ちになりました。
地元コーヒー店とのコラボによるブレンド
店を任されることになった北川さんも、以前から主に「cafe du juno」の一員として、法多山の催しに関わってきました。
実店舗をもっていたわけではなく、普段は会社にお勤めしながら、イベント出店していたそうです。昨年脱サラし、晴れてごりやくカフェの店主になりました。
北川さんのマドレーヌ(1個100円)は香ばしくほどよい甘さで、中はしっとり外サクサク! メニューは少しずつ、増えていく予定です。
コーヒーは、大谷さんが「まめやかふぇ」に依頼してブレンドされた「JUNO-BLEND」を使用。ブラジルの契約農家の豆をメインに、エチオピアのモカ豆をブレンドしています。
芳醇な香り、コクと苦みのバランスがよく、後味すっきり。焼き菓子とも相性ばっちりです。参拝で歩き疲れた後でも飲みやすい気がしました。
さて、このごりやくカフェ。前述しましたが境内にもう1店舗あります。現在は土・日・月曜のランチのみ開店。「一乗庵」という風趣な建物で、こちらも北川さんが営んでいます。
※今回は取材できなかったので、写真は大谷さんからお借りしました。
高野山の霊木や松が使われた書院造りの建物で、特別な法会などの際に客人をもてなしている場所。この空間で、地元で採れる新鮮な食材を活かした、家庭的な創作料理を楽しめます。
栄養士の資格をもつ北川さんが体にやさしい料理を提供。
風情ある空間と日本庭園の美しさ、おいしい食事を同時に楽しめる、とても贅沢なカフェ。こちらにもぜひ足を運んでください。
脱サラして料理やお菓子作りに専念し始めた北川さんをはじめ、大谷さんを中心にさまざまな出逢いが生まれている法多山。
“ローカルを育む舞台”としての今後に注目です。